
新潟はお米の産地であり、また山川といった水環境に恵まれているため、古くからおいしいお酒が生産されることで有名です。お米の生産高は日本一の北海道とほとんど並んでおり、また新潟県の食料自給率も日本全体が40%程度なのに対し、ほぼ100%であり、食料生産に関しては勿論優良県です。お酒の生産高は恐らく灘、伏見を抱える兵庫県や京都府には及ばないかもしれませんが、それらに次ぐ量の生産をしていると思われます。ただ、私が強調したいのはお酒の生産高ではなく、その多様な質です。灘、伏見では大きな酒造メーカーが中心となってお酒造りを行っておりますが、新潟県の場合には現在でも100社近くある蔵元がそれぞれ伝統の技を持ち、独特のお酒を造っているという特徴があります。この背景には新潟県の醸造試験場の技術も重要な役割を担ってきました。日本の都道府県の中で唯一独立した日本酒専門の醸造試験場であり、昨年創立80周年の記念行事が行われました。もともと酒造業界の指導、杜氏や酒造従業員の養成機関として創立され、現在は新潟県の労働観光部の産業振興課に所属しています。この試験場が中心となり、これに新潟県の酒造組合が協力する形で新潟県の気候・風土・水質に適したお米、微生物、醸造法を開発してきた結果が新潟県独特のお酒の生産に繋がっているのです。例えば原料のお米に関しては食用のコシヒカリに対して「五百万石」や「一本じめ」といった酒造好適米の開発、アルコール発酵の主役である酵母に関しては異なる酵母株を細胞融合して作った優良酵母G74の育成などがあります。また、日本酒の製造法は大変に奥が深く、その技術の改良も単純ではありません。同じアルコール飲料であるワインの場合には、その質の多くの部分はぶどうの質に依存します。それはぶどうに含まれる甘み成分であるブドウ糖が酵母によってアルコールへと変換される反応が主であり、単純発酵と呼ばれるのに対し、日本酒の場合にはお米の澱粉をコウジカビがブドウ糖に変換し、それと並行して酵母がブドウ糖をアルコールへと変換する並行複発酵と呼ばれる過程が含まれるためです。この両方の微生物の働きのタイミングや強さが上手く噛み合って初めて美味しい日本酒ができます。ここに杜氏の技と熟練の入る余地があり、越後の人達の根気の良い人柄がこの技の開発に大きく役立ってきたことは疑いありません。こうして見てきますと、季節や気温、水や風などの良質なお米を育てる風土と、根気よく試行錯誤を繰り返し改良を重ねることのできる越後人の人柄、そして醸造試験場の技術力とが合体し、その結果として新潟の誇る日本酒ができていることを強く感じます。