新潟薬科大学

応用生命科学部 研究室紹介

応用微生物・遺伝子工学研究室

生物の寿命が決まる仕組みを明らかにし、健康で長生きできる社会の実現を目指す。

健康で長生きをしたいというのは多くの人の望だと思います。近年の食生活の改善や医療技術の進歩によって,人の平均寿命は伸びてきました。一方で,平均寿命と介護を必要としない健康寿命との乖離が社会問題となってきています。この課題の解決のためには,寿命が決まる基本的な仕組みを明らかにする必要があります。
私達はモデル生物である酵母を用いて寿命決定の仕組みについて研究しています。酵母の研究が端緒となって,カロリーの摂取制限によって寿命が伸びる仕組みがヒトを含む多くの生物で共通していることが明らかとなってきました。酵母を用いて未だ知られていない寿命決定の仕組みを明らかにすることにより,人々が健康で長生きできる社会の実現に貢献できることを願っています。
また遺伝子発現制御学研究室の教員は,応用微生物学研究室を兼務しており,酵母を使った油や酒などの発酵生産にも興味をもって研究しています。


研究概要

分裂酵母の寿命延長機構

酵母の研究が端緒となり,全生物に共通して,カロリー制限による低代謝状態が細胞・個体の寿命を延長させることが明らかになってきました。他方で寿命決定機構はカロリー制限だけでは説明できない複雑な生命現象であると考えられています。また近年,微生物の細胞間情報伝達機構に注目が集まっていますが,それが微生物の寿命に関与するという報告はほとんどありません。我々のグループでは,分裂酵母の長寿命変異株(KK268)が細胞外に長寿命因子を出し,それが他の酵母の寿命をも延ばすことができることを発見しました。そこで,この長寿命変異株が分泌する長寿命因子の同定・解析を通じて,酵母における細胞間情報伝達を介した寿命の決定機構の解明を目指しています。
酵母の生存戦略としては,常にこの物質を分泌し寿命を延長させる方が有利だと考えられます。しかし周囲の環境によっては,この物質の分泌を抑制して大多数の細胞が死ぬことで,小数の生き残る細胞に栄養を供与する生存戦略をとっている可能性もあります。野生型の酵母がこの長寿命因子の分泌を促進・抑制する条件(培地の種類,ストレス,細胞密度等)を解析することで,新たな酵母の生存戦略を明らかにできると期待されます。また応用的には,長寿命変異株の長寿命原因遺伝子の同定と,長寿命因子を同定することにより,食品中の微生物の滅菌や,人の老化制御に広く波及する重要な知見に繋がる可能性があると期待されます。

分裂酵母の非増殖細胞におけるテロメア維持

真核生物が持つ最大の特徴の1つに線状染色体を持つことが挙げられます。真核生物は線状染色体をもつことで,減数分裂が可能になり,種の多様性を増加させるという大きな利点を享受したと考えられています。しかしそれと引き換えに,DNA末端は異常なDNA二重鎖切断部位として認識される可能性が生じました。さらにDNA末端はDNAポリメレースの作動原理のために複製のたびに短小化するという末端複製問題も抱えることになりました。真核生物は染色体末端にテロメアと呼ばれる領域を形成してこれらの問題を回避しています。すなわち,テロメア維持に中心的な役割を果たす蛋白質複合体(シェルタリン)が,テロメアDNA合成の逆転写酵素テロメレースの制御を行うと同時に,DNA損傷認識機構からの感知を防ぐ末端保護という機能を果たしているのです。
このように全真核生物に共通の重要なシステムであるテロメア維持機構の研究は,当初,出芽酵母をモデル生物として発展してきました。しかし近年では分裂酵母とほ乳類のテロメア結合蛋白質の相同性が非常に高いことから,分裂酵母でのテロメア研究は,ほ乳類のテロメア維持機構の解明に直結すると考えられ,分裂酵母での研究にも注目が集まっています。
これまでは,細胞が増殖している状態でのテロメア維持機構については精力的に研究がなされてきました。しかし,多細胞生物を構成する多くの細胞は分化した後,増殖しない状態を保っています。また,酵母をはじめとした単細胞生物も,自然環境では生涯の多くの時間を増殖停止状態で過ごしていると考えられます。そのため我々のグループでは,今まで焦点が当たることがほとんどなかった,非増殖細胞におけるテロメア維持機構の解明を目的としています。テロメア維持機構の全容解明は,細胞老化や癌化といった現代医療の中心的課題解決に密接に関与するため,本研究は将来的にはより副作用の少ない抗老化・抗癌化薬剤の開発の足がかりになることが充分に期待されると考えています。

油脂酵母の油脂蓄積・分解機構

油脂酵母 Lipomyces starkeyi は菌体内に大きな1つの脂肪滴の中に中性脂質であるトリアシルグリセロールを溜め,その重量は菌体乾燥重量の70%にまで達することが知られています。そのことから,L. starkeyi が蓄積するトリアシルグリセロールを食用や工業用油脂へ利用することが期待されています。しかしながらこの酵母を産業利用するには,トリアシルグリセロールの分解を抑え,さらに効率的にトリアシルグリセロールを蓄積させることが重要です。そこで我々のグループでは,特にこの酵母がトリアシルグリセロールを分解する仕組みに着目しています。
酵母細胞がトリアシルグリセロールを分解する際には,主として細胞質に局在するリパーゼによる経路が機能すると考えられてきました。最近になりトリアシルグリセロールの分解にオートファジーの経路も関与することが明らかとなりつつありますが,まだその分解機構は不明な点が多いです。我々は,種々のオートファジーに関与する遺伝子を破壊することで,L. starkeyi がどのような経路でトリアシルグリセロールを分解しているのかを明らかにしようとしています。その経路を抑制することで,食料・エネルギー産業利用に資するような,トリアシルグリセロールをさらに多く蓄積した酵母を作出することができると考えられます。また酵母がトリアシルグリセロールを分解する機構は,ヒトの脂肪細胞のものと類似していると考えられることから,酵母を用いた基礎研究がヒトの肥満防止・健康寿命の促進に繋がることも期待されます。

教員紹介

髙久 洋暁(タカク ヒロアキ)
教授
学位:博士(農学)
山崎 晴丈(ヤマザキ ハルタケ)
助教
学位:博士(農学)

先生からのメッセージ

どんなことに対しても「なんでだろう?」と疑問に思う気持ちを大切にしていきましょう。

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