YAKUDAI WALK 薬大再発見コラム
若年層で拡大する2つの薬物乱用 ~「大麻乱用」と「市販薬のオーバードーズ」~
みなさんこんにちは新潟薬科大学の城田です。
若年層による「大麻乱用」は、年々拡大し深刻な状況です。
またそれに加え、近年、若年層による市販薬の過剰服用(=オーバードーズ)も拡大し、社会問題となっています。
このように「大麻乱用」と「市販薬のオーバードーズ」は、どちらも特に若年層で拡大している薬物乱用ですが、多くの場合は、乱用者がこれらの薬物乱用に至った背景に違いがあるようです。
今回は、これらの薬物乱用の背景の違いを中心にお話しします。
大麻事犯は、若年層の検挙人員が最も多く、乱用に至った背景は「誘われて」が最多
警察庁が発表した資料(※1)によると、大麻事犯の検挙人員は、平成26年以降年々増加が続き、令和3年には過去最多となっています。
出典 ※1:「令和3年における組織犯罪の情勢」(警察庁組織犯罪対策部、令和4年3月発行)
また、大麻事犯の検挙人員を年齢層別にみると、最も多い年齢層は20歳代、次いで20歳未満となっており、かつ、これらの年齢層の増加が大麻事犯の全検挙人員を大きく押し上げていることが分かります。
さらに、この警察庁の資料の中には、大麻取締法違反(単純所持)の検挙者の実態調査についても記載されています。
この調査によると、大麻を初めて使用した経緯は、「誘われて」が全体の約7割ほどを占め「自分から求めて」薬物を使用するケースは比較的少ない事が分かります。
また、初めて使用した年齢が低いほど「誘われて」使用する割合が極めて高く、「友人や知人」が譲渡人となっているケースも多いと報告されています。
「市販薬のオーバードーズ」乱用に至った背景の多くは、「精神的な苦痛」や「生きづらさ」が関係
「大麻乱用」の他に、若年層で拡大しているもう一つの薬物乱用として、「市販薬のオーバードーズ」が挙げられます。
「オーバードーズ」とは、薬物を過剰に摂取することを意味しており、「OD」とも呼ばれています。
市販薬に限らず、医薬品をオーバードーズする行為は、身体に深刻なダメージを与え、最悪の場合、死に至る危険な行為であるほか、依存症に陥る場合もあり、絶対に行ってはならない行為です。
市販薬のオーバードーズの危険性については、以前、YAKUDAI WALKで記事を投稿させていただきましたので、詳しくは、こちら(https://www.nupals.ac.jp/n-navi/walk/walk-14172/)をご覧ください。
国立精神・神経医療研究センターが発表した資料(※2)によると、2020年度に全国の精神科医療施設において薬物依存症の治療を受けた10代患者の最も多い「主たる薬物」は「市販薬」でした。
出典 ※2:「国内外における青少年の薬物使用の実態」令和2年度厚生労働行政推進調査事業費補助金(医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業)薬物乱用・依存状況の実態把握と薬物依存症者の社会復帰に向けた支援に関する研究(研究代表者:嶋根卓也)
また、依存している「主たる薬物」が「市販薬」である薬物依存症の治療を受けた10代患者は、2014年度では0%であったにもかかわらず、2020年度の調査では、なんと過半数の56.4%を占めています。
ここ数年で10代による「市販薬のオーバードーズ」が急増していることが分かります。
この市販薬のオーバードーズに至った背景としては、一概には言えませんが、不安や葛藤、憂鬱な気分を和らげたいなど精神的な苦痛から逃れる為に薬をオーバードーズしているケースが多いとされています。
さらに、家族や学校など周囲に相談することができないほどの深刻な悩みを1人で抱えているケースも多いとされています。
大麻使用に至るプロセスとは異なり、他者からの誘いではなく、自ら求めて使用に至る可能性が高いと考えられます。
SNS上では、当事者自身によるオーバードーズに関する投稿も多く見受けられ、それらの投稿内には「~と繋がりたい」という#(ハッシュタグ)キーワードも少なからず記載されていることがあります。
あくまでも個人的な見解となりますが、「~と繋がりたい」というキーワードの背景には、不安や悩みは勿論ですが、「孤独感」や「寂しさ」があるように思われます。
SNSというオンラインネットワーク上ではありますが、当事者達がしっかりとSOSを出してくれているように感じます。
周囲は、このようなSOSを見逃さず、発見したら対象者に寄り添い、彼らの背景を理解するよう努め、彼らの「心の声」にしっかりと耳を傾け支援をしてくことが重要のように思えます。
若年層による薬物乱用を未然に防ぐ為には、薬物ごとの乱用背景を踏まえた適切な啓発や対策が急務
上述のように、「大麻乱用」と「市販薬のオーバードーズ」は、どちらも若年層に拡大している薬物乱用となっています。
多くの場合、「大麻乱用」のきっかけには「誘われて」、「市販薬のオーバードーズ」には「精神的な苦痛」が背景にあり、薬物乱用に至った背景が全く異なることが分かります。
したがって、これら2つの薬物乱用に対する若年層への啓発方法は、どちらも同じ薬物乱用の一種だからといって「同じ」方法で啓発することは、効果が限定的となってしまう恐れがあります。
すなわち、若年層に対してこれらを啓発する等の機会があれば、「大麻乱用」に関しては、友人や知人など身近な人から誘われた時の対処方法を啓発したり、「市販薬のオーバードーズ」に関しては、当事者が抱えている悩みや問題など「精神的な苦痛」に対して、周囲の家族や関係機関が連携して向き合ったり、医薬品の適正使用に関する教育を拡充する等、各薬物の背景を踏まえた上で啓発方法や対策を薬物ごとに検討し実行することが、若年層を薬物汚染から守ることに繋がるのではないかと考えます。
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