YAKUDAI WALK 薬大再発見コラム

なぜ若年層によるオーバードーズが引き起こされるのか?

薬学部
2023/12/18

みなさんこんにちは。
新潟薬科大学の城田です。
以前、「-薬物乱用-市販薬のオーバードーズの危険性について」というタイトルで、市販薬の過剰摂取(オーバードーズ:OD)についての記事を書かせて頂きましたが、今回は、若年層による市販薬のオーバードーズがまん延している背景等について、いくつかの私見も含めて記事を書かせて頂きます。

市販薬の過剰摂取は「生きづらさ」を感じながら過ごす若年層の受け皿の1つ

市販薬の過剰摂取(OD)に関する様々な情報や報道等あり、若年層がODに至った経緯には、勿論、様々な理由が考えられますが、日々の生活を送る上で、悩みや不安、葛藤を抱える等、「生きづらさ」を抱えながら過ごしている若年層が多くなっており、その「生きづらさ」を乗り越える1つの手段としてODを行ってしまうというケースが多いことが窺えます。

すなわち、この若年層が抱える「生きづらさ」等に対して、適切な対策が講じられなければ、若年層による市販薬OD問題を根本的に解決することは困難だと個人的には思います。

また、これだけ多くの情報が溢れかえった現状では、市販薬ODを行うと、実際にどうなってしまうか試してみたいというような、興味本位で手を出すケースも想定され(これまでの数多くの違法薬物の乱用背景がそうであったように)これから、興味本位で市販薬ODを行ってしまう層が増えてしまう可能性もある為、今後の状況によっては、こちらも適切な対策を講じなければならないと思われます。

情報入手が比較的容易ー「ODレポ」の存在などー

現在、報道等でODに関する問題が数多く取り上げられ、一般的にも広く認識されています。

また、特にSNS上では、ODに使用される医薬品の種類や、具体的な方法などに関する投稿も数多く存在し、中には、自身のODの体験談を経時的に記載した通称「ODレポ」に関する投稿もあり、これを参考にODを行う医薬品や方法を選んでいる方も少なくないと推察されます。

すなわち、情報を入手しようとした場合、すぐにでもスマホで必要な情報を仕入れることが可能です。
したがって、そのような情報にアクセスしてしまう心理にならないように日頃からの未然防止対策が急務です。

医薬品入手時のハードルが比較的低い ー購入規制の難しさー

市販薬ODの行為自体は違法行為ではなく、その他の乱用薬物と比較すると、逮捕のリスク等無く、付近の薬局、ドラッグストアで購入できるほか、インターネット経由での購入もでき、市販薬ODは、ハードルの低い薬物乱用の1つとなっています。

最近では、市販薬を何らかの手段で大量に仕入れ、それをトー横などで売りさばく事案(薬機法違反行為)なども報道されており、当事者が非正規ルートで手に入れるケースもあるようです。

厚生労働省でも、乱用の恐れのある市販薬について、

原則1人1箱しか売らないなどの方針を示しておりますし、今後の規制強化も含めてあらゆる対策が検討されているところですが、この記事を書いている現時点では、当事者が他店での購入履歴を隠してしまうと、複数店舗で購入することは事実上可能ですし、インターネット上での購入であれば、そのような事がより行いやすいと思われます。

また、1箱のみ購入したとしても、例えば、その1箱でODの行為自体は可能である為、購入規制にも限界があるのが現状です。
さらには、たとえ市販薬の購入規制を強化しても、「生きづらさ」を乗り越える為の手段がOD以外の行為に移行するだけで、根本的な解決になるのかは個人的には疑問です。

また、市販薬の購入規制強化を行うと、薬局・ドラッグストアで販売している市販薬で治るような症状でも、医療機関を受診するケースが増えてしまい、結果として、国の財政を圧迫している医療費をさらに押し上げてしまう可能性も懸念されます。

おわりにー誰でも当事者になる可能性があり、誰でも支援者になり得る可能性があるー

「生きづらさ」を抱えながら、それを乗り越えるために市販薬ODを行う若年層は、ODを行いながらも必死で今を生きています。

また、若年層に関わらず、何らかの「生きづらさ」を抱えながら日々を過ごしている方々は多く、常にその対策が求められているのが現状であり、誰がODを行っていても不思議ではありません。

実際に、数年前の調査ですが、国立精神・神経医療研究センターの「薬物使用と生活に関する全国高校生調査2021」によると、「過去1年以内に市販薬の乱用経験がある」という高校生は、約60人に1人の割合であったと報告されています。
よって、この問題は、報道でよく目にするトー横、グリ下などに限らず、全国的な問題であり、例えば、家族、友人、近所の方など、誰でも身近に市販薬ODを行う若年層が存在している可能性があることが推察されます。
他人事ではありません。

一方、誰でも当事者との接触の可能性がありますので、誰でも当事者達を救う支援者になり得る可能性があります。

したがって、この若年層のOD問題について、行政機関のみならず、地域のより多くの方々が、現状等を理解し、若年層の当事者達と接触等した機会に備え、当事者の相談応需や当事者達を適切な支援先へ誘導するなどのスキルを持ち合わせ、誰でも当事者を適切に支援できる体制を整えることが出来れば、「生きづらさ」を抱えながらも必死で生きている若年層を一人でも多く救うことができるのではないかと(難しいことだとは重々承知していますが)日々個人的には思っています。

私自身も、かつて行政機関で薬物乱用防止対策に関する業務を行っていた関係もあり、今でも社会貢献の一環で、学校の児童・生徒さん達や薬物乱用防止教育に携わる指導者向けに、市販薬ODを含めたお話をさせて頂いています。
講演を通じて、1人でも多くの方々に現状・対策案を伝え、1人でも多くのODを行う若年層を救って欲しいという想いがあり、依頼された講演は基本的には全てお引き受けし、微力ではございますが、熱意をもってお話させて頂いております。

この記事を読んだ方が、1人でも多くの若年層を救うきっかけとなって頂ければ幸いです。

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この記事を書いた人

城田 起郎

新潟薬科大学 薬学部