研究室紹介

RNA治療学研究室

precision medicine実現のための短いRNAの治療薬と診断・予後予測マーカーの開発および次世代へのその知識・技術の継承

【研究】

・TRUE gene silencing法の基盤となるtRNase ZLと細胞内sgRNAによる遺伝子発現抑制の生理学的役割の研究。
・TRUE gene silencing法をがんや感染症に応用して治療薬となるsgRNAを探索。
・血漿および唾液中に存在する31/32-ntのY4-RNA断片の診断・予後予測マーカーとしての可能性の研究。
・「mRNAを標的とする低分子創薬および核酸創薬」を目指すベンチャー企業との共同研究。

【教育】

・「生化学」の講義と実習および「遺伝子染色体検査学」の講義と実習を担当しています。講義では、卒業後も英語での最新の科学情報を容易に取得できるように、英語で解説された科学動画を多く用いています。また、実習では、手技を身につけるだけでなく、実験方法の原理を深く理解し、実験結果の解析および解釈が適切にできるようになるように考えられています。
・毎週金曜日の昼食時に最新の科学論文の紹介および議論を行う「Science lunch」を催しています。学部を越えて、興味のある学生さん、事務職員、教職員の方々が参加しています。年に約50回、卒業までに約200回「Science lunch」に参加することで、「いつしか最新の科学に追いついていた」となることを願っています。

研究概要

【tRNase ZLと細胞内sgRNAによる遺伝子発現抑制の生理学的役割の研究】

 1991年に私たちは、tRNAの3′トレーラー除去酵素であるtRNase ZLが、3′末端が欠失した約65 ntのtRNA断片をガイドとして、標的となるRNAを4塩基認識RNAカッターとして切断できることを発見しました(図1)。その後、他にも様々なtRNA断片が見つかり、現在、tRNA断片の研究が1つの分野を築いています。私たちの研究課題の1つは、tRNase ZLと様々な短いガイドとなるRNA(small guide RNA (sgRNA))による標的RNAの切断による遺伝子発現抑制の生理学的役割の解明です。

【がんや感染症に対するsgRNA治療薬の探索】

 私たちは、上記のtRNase ZLの特性を利用した遺伝子発現抑制法、TRUE gene silencing(tRNase ZL-utilizing efficacious gene silencing)法を開発してきました。発現を抑制したい標的mRNAに特異的に結合するsgRNAをデザイン・化学合成して、これを細胞内に導入することにより標的mRNAの量を減少させることができます(図2)。5種類あるsgRNAから最適なものを選択しながら、難治血液がんの多発性骨髄腫や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するsgRNA治療薬の探索を行っています(図3)。

【Y4-RNA断片の診断・予後予測マーカーとしての可能性の研究】

 2012年に私たちはY4-RNAの5′側31/32-ntの断片が血漿中にたくさん存在することを発見し、このRNA断片がtRNase ZLのsgRNAとして機能することを示しました。また、血漿中の31/32-nt Y4-RNA断片が新たな炎症マーカーとなりえること、多発性骨髄腫の患者さんの血漿中に異常に多く存在することなどを示してきました。現在、私たちはスポーツ医学検査研究室の吉田保子先生と共同で、Y4-RNA断片の他の疾患の診断・予後予測マーカーとしての可能性について研究しています。

教員紹介

梨本 正之(ナシモト マサユキ)
教授
学位:医学博士

髙橋 昌幸(タカハシ マサユキ)
助教
学位:博士(応用生命科学)